インクジェットとは、直径20μmほどの小さなノズルから、数pLという微小な液滴を吐出する技術です。
そして、その液滴を飛ばす方法には、いろいろな方式があります。例えば、
・インク室の液体を微小なヒーターで沸騰させ、そのときに発生する気泡でインクを押し出す「サーマル方式」
・電気を加えると伸縮する圧電体を用いて、インク室の壁を勢いよく押し込み、インクを押し出す「圧電方式」
・左右が圧電体の壁でできているインク室をつくり、その壁をいったんインク室が広がるように『く』の字に曲げて圧力を下げ、インク流を呼び込みます。インク流が来たタイミングで逆向きの『く』の字にしてインク室を押すことで、インクを押し出す「せん断方式」
などがあります。
後発でゼロからスタートする私たちが採用したのは、「せん断方式」でした。
理由は、強大な競合他社2社がまだ手を付けておらず、産業用途にも向いていたこと。そして何より、製造装置が比較的シンプルだったことです。
せん断方式のインクジェットヘッドは、簡単に書くと、幅70μmほどのダイシングブレードで、厚み方向に分極させた圧電体に複数の溝を加工します。
その後、溝を隔てる壁の側面に、斜め方向から真空蒸着を行うことで、壁の上半分に電極を形成します。さらに、壁の上面にある不要な電極を削り落とし、溝をふさぐように板を貼り、最後に開口部へノズルプレートを貼れば完成です。
半導体ウエハーを切断するダイシングマシンと真空蒸着機があれば、インクジェットヘッドの肝であるインク室ができてしまうのです。
私は、そのヘッド設計と加工を担当しました。
汎用的な設備で高度なMEMSを作ること――これは実は、とても難しいことでした。
ダイシングブレードは、直径も幅も摩耗していきます。これはインク室の壁の厚みを変化させます。
真空蒸着による電極形成では、複数のインク室の間で電極幅に差が生まれます。
天板の接着では、接着剤量のばらつきによって、インク室への接着剤の入り込み量に差が出てしまいます。
若かった私は、毎日毎日、安定した試作品を作れるようになるために、摩耗しにくいダイシング加工と摩耗補正の最適化、そして接着プロセスの改善に取り組みました。
大変でしたが、この経験は私にとって、ものづくりにおけるプロセス技術やノウハウの大切さ、そしてそれに対処するための勘どころを学ばせてもらう機会となりました。


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